実務で分かるSitecoreとDrupalの違い|多言語対応の標準機能を軸に

CMS構築
2026.09.14
塩川
エンジニア

グローバル展開を進める企業のWeb担当者にとって、CMS選定はプロジェクト全体のコストとスケジュールを大きく左右する重要な意思決定です。特に多言語サイトを前提とする場合、標準機能でカバーできる範囲と追加開発が必要な範囲の見極めを誤ると、リリース後の運用フェーズで想定外の工数や手戻りが発生しやすくなります。特に初期選定段階での判断が、その後の数年間にわたる運用コストや保守負荷を左右する点を念頭に置く必要があります。

本記事では、エンタープライズ向け商用CMSとして長年の実績を持つSitecoreと、オープンソースCMSとして世界的に採用実績のあるDrupalを、多言語対応という観点から比較します。両者は同じ「CMS」というカテゴリに属しながらも、設計思想や責任範囲の考え方が異なり、結果として「標準機能でできること」と「追加実装が必要なこと」の線引きに差が生まれます。

マーケティング部門・情報システム部門の担当者を対象に、実務視点での違いを整理します。

目次

    SitecoreとDrupalの設計思想の違い

    Sitecoreの思想:エンタープライズ前提の標準化

    Sitecoreは、グローバル企業のマーケティング活動を前提に設計された商用CMSです。多言語・多地域・多ブランドの運用を「標準機能」で提供する思想が根底にあり、コンテンツ管理、パーソナライゼーション、マーケティング自動化までを一つのプラットフォームで扱えるよう構成されています。

    言い換えると、Sitecoreは「エンタープライズ運用に必要な要素をあらかじめ内包している」CMSであり、最上位管理者から現場編集者までの責任範囲を、権限設計として初期段階から組み込みやすい構造になっています。ただし、権限管理の具体的なUIや設定範囲は製品バージョン(Sitecore XP/XMなどの従来型製品、XM Cloudなどのコンポーザブル型製品)によって異なります。特にXM Cloudのようなコンポーザブル型製品では、パーソナライゼーションやマーケティング自動化はPersonalizeやSendといった別製品との組み合わせで実現する構成となっており、従来のXPのような一体型とは前提が異なる点に注意が必要です。詳細は公式ドキュメントや販売パートナーへの確認をおすすめします。

    Drupalの思想:柔軟性と拡張性を重視したモジュール型

    一方のDrupalは、オープンソースコミュニティによって開発されているCMSです。コア機能をシンプルに保ちつつ、必要な機能をモジュール(拡張機能)で追加していく設計思想を持ちます。なお、Drupal 8(2015年リリース、現在はすでにEnd of Life)以降はSymfonyフレームワークをベースとしたアーキテクチャに刷新されており、現行バージョンであるDrupal 10・11においても、モジュール型の拡張性を保ちながらよりオブジェクト指向的な設計が取り入れられています。

    この設計は、要件に応じて柔軟にカスタマイズできるという強みがある一方、多言語対応やワークフロー、権限管理などの実装は、複数モジュールを組み合わせて構築する前提となります。結果として、要件が増えるほど設計項目が増える傾向があります。

    多言語対応の実装差:標準機能と追加工数

    Sitecoreの多言語対応

    Sitecoreでは、コンテンツアイテムに対して言語バージョンを紐付ける仕組みが標準搭載されています。日本語版のページを作成したうえで、同一アイテムに英語版、中国語版を追加していく形で、翻訳管理を一元化できます。

    • 言語ごとのバージョン管理が標準機能
    • 翻訳ワークフロー(下書き→レビュー→公開)を標準で構成可能
    • サイト構造を維持したまま言語切替が可能

    Drupalの多言語対応

    Drupalも多言語サイトの構築は可能で、要件に応じて次の4つのコアモジュールを組み合わせて実装します。すべて必須というわけではなく、必要なものだけを有効化します。

    1. Language(言語追加)
    2. Content Translation(コンテンツ翻訳)
    3. Configuration Translation(設定翻訳)
    4. Interface Translation(UI翻訳)

    たとえば「管理画面は日本語のまま、コンテンツだけ日英併記」であれば Interface Translation は不要、といった切り分けが可能です。

    これら4モジュールはDrupal 8以降コアに同梱されており、追加インストールは不要です(有効化の操作のみ)。ただし、それぞれを有効化したうえで、コンテンツタイプごとの翻訳可否を定義し、さらにフィールド単位で翻訳対象を設計するという手順を踏む必要があります。翻訳ワークフロー(下書き・レビュー・公開といった状態管理)を構築する場合は、Content ModerationモジュールやWorkflowsモジュールなどを組み合わせて実装するのが一般的です。

    なお、フィールド単位の「翻訳対象にするか/元言語と共有するか」の設計は、後から変更すると既存データの持ち方が変わるため、手戻りが大きくなりやすい箇所です。この傾向はフィールド設計だけでなく、コンテンツタイプの翻訳可否設定や権限モデルの設計にも共通しており、いずれも初期段階での確定が求められます。実務上は、これらの設計を要件定義の段階で確定させておくことを強く推奨します。

    実務で見えてくる作業負荷の差

    多言語サイトの運用局面で、両者の差が現れやすいシーンを整理します。

    観点 Sitecore Drupal
    言語追加 管理画面から追加(所要時間の目安:数分〜数十分) モジュール設定+フィールド調整(所要時間の目安:数時間〜数日)
    翻訳ワークフロー 標準搭載(下書き→レビュー→公開) コア同梱モジュール(Content Moderation、Workflows等)を有効化して構築。設定・検証工数が別途発生
    権限管理 ロールベースで細分化しやすいUI(製品バージョンにより差異あり) コアのロール機能で基本設定可能。きめ細かい権限制御には追加モジュールが必要
    地域別コンテンツ配信 標準機能で対応 Domain AccessモジュールやGeoIPベースのリダイレクト設定など、要件に応じた拡張実装が必要

    ※所要時間はサイトの構成、要件の複雑さ、担当者のスキルレベルによって大きく変動するため、あくまで目安としてご参照ください。

    Sitecoreでは管理画面の操作で完結する作業が、Drupalではモジュール選定・設定・検証というステップを踏む場面が増えます。これは「Drupalが劣る」という意味ではなく、設計思想の違いに起因する運用負荷の差として理解する必要があります。

    コストと責任範囲の考え方

    Sitecoreは商用製品であり、近年はコンポーザブルアーキテクチャ(XM Cloudなど)への移行が進んでいます。従来のモノリシック型製品(XP、XMなど)と新しいコンポーザブル型製品では、料金体系や提供形態が異なります。最新の製品構成とライセンス体系は公式サイトまたは販売パートナーへご確認ください。一般的には、標準機能でカバーできる範囲が広いため、追加開発の工数を抑えやすい構造といえます。

    Drupalはライセンス費用が不要ですが、モジュールの選定・組み合わせ・保守は自社もしくはパートナーが担うため、責任範囲の明確化が選定時点で必要になります。特にセキュリティ更新やモジュール間の互換性維持は、継続的な運用の中で重要な検討項目になります。

    どちらを選ぶべきか:判断軸の整理

    以下の観点で自社の要件を整理することをおすすめします。

    • 対象言語数と地域数(今後の拡張予定も含む)
    • 翻訳ワークフローの複雑さ
    • マーケティング機能(パーソナライゼーション、A/Bテスト等)の必要性
    • 社内の運用体制と技術リソース
    • 初期投資と運用コストのバランス

    「標準化された仕組みを前提にグローバル運用したい」場合はSitecoreが、「要件に応じて柔軟に設計し、コスト構造をコントロールしたい」場合はDrupalが有力な選択肢となります。

    よくある質問(FAQ)

    Q. SitecoreとDrupalは、どちらの導入期間が短いですか?

    要件によりますが、多言語対応が主要件の場合、Sitecoreは標準機能で対応可能な範囲が広いため、設計項目が少なく済む傾向があります。Drupalはコアモジュールの有効化に加え、コンテンツタイプごとの翻訳設定やフィールド単位の設計が必要となり、要件が複雑化するほど工数が増えます。なお、実際の導入期間はサイト規模や既存システムとの連携要件によって変動するため、個別の見積もりが必要です。

    Q. Drupalでも多言語サイトは十分構築できますか?

    構築は可能です。モジュール構成の詳細は第2節をご参照ください。実務上の課題になりやすいのは、モジュールを有効化した後の運用フロー設計です。翻訳の承認フローや、誰がどの言語のコンテンツを更新するかといった役割分担を事前に定めておかないと、運用開始後に手戻りが発生しやすくなります。要件が明確で、運用体制が整っている場合には十分に選択肢となります。

    Q. CMS選定で最初に検討すべきことは何ですか?

    自社の運用体制、対象言語・地域、必要なマーケティング機能、責任範囲の分担を洗い出すことをおすすめします。機能比較の前に要件を整理することで、選定後の手戻りや調整を減らすことができます。

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