複数部門が関わる大規模サイト、更新・承認フローのUX設計術
大規模な企業Webサイトでは、Web担当者だけでなく、各事業部門・広報部門・情報システム部門など、複数の組織がコンテンツの作成・更新・確認・承認に関わります。
そのため、CMSを導入するだけでは「更新しやすいWebサイト」にはなりません。
重要なのは、コンテンツガバナンス、権限設計、CMSの運用ルールを、実際にコンテンツを更新する人のUX(ユーザー体験)まで含めて設計することです。
特に大規模サイトでは、次の3点をセットで考えることが重要です。
- 誰が、どのコンテンツを管理するのか……コンテンツガバナンス
- 誰が、どこまで操作できるのか……権限設計
- どのような手順で更新・確認・承認するのか……CMS運用ルール
これらがバラバラに設計されていると、更新担当者の負担が増え、承認の停滞や誤公開、運用ルールの形骸化につながります。
この記事では、複数部門が関わる大規模サイトを対象に、更新・承認フローをUXの観点から設計するためのポイントを解説します。
目次
大規模サイトでは「CMS」だけを設計しても不十分
- 編集権限を設定する
- ワークフローを設定する
- 公開前に承認できるようにする
- 操作マニュアルを作成する
しかし、これらを個別に設計すると、実際の業務との間にズレが生まれることがあります。
たとえば、事業部の担当者が記事を更新する場合、次のような業務が必要になります。
- 自分で編集する
- 上長に確認してもらう
- 広報が表現を確認する
- Web担当者が公開する
それなのに、CMS上では単純な「編集→承認→公開」しか用意されていないケースがあります。
この場合、担当者はCMSの外でメールやチャットを使って確認を依頼しなければなりません。結果として、次のような問題が起こります。
- 誰が承認すべきなのか分からない
- 承認待ちのコンテンツが把握できない
- 修正依頼がメールやチャットに分散する
- 公開タイミングが遅れる
- 担当者によって運用方法が変わる
CMSのUXは、管理画面の使いやすさだけではなく、コンテンツが公開されるまでの業務全体で考えることが重要です。
まず「誰が何を管理するのか」を整理する
最初に行いたいのが、コンテンツガバナンスの整理です。コンテンツガバナンスとは、簡単に言えば次のようなものです。
Webサイト上のコンテンツを「誰が・どのようなルールで・どのように管理するか」を定めること
大規模サイトでは、すべてのコンテンツを1つの部門が管理する必要はありません。
むしろ、各部門が専門性を持っている場合は、役割を分担した方が効率的です。たとえば、以下のような役割分担が考えられます。
| 役割 | 主な責任 |
|---|---|
| 各事業部門 | 商品・サービス情報の作成、内容確認 |
| 広報・Web統括部門 | サイト全体の品質・表現・ブランド管理 |
| 情報システム部門 | CMS・認証・インフラなどの管理 |
| 承認者 | 掲載内容の最終確認 |
| CMS管理者 | ユーザー・権限・ワークフローなどの管理 |
ここで重要なのは、組織図とCMSの権限構造をそのまま一致させないことです。
たとえば「営業部」「マーケティング部」といった組織単位だけで権限を設定すると、組織変更のたびにCMSの設定変更が必要になる可能性があります。
そのため、次のような観点で整理します。
- コンテンツの種類
- 管理対象のサイト・製品
- 編集できる範囲
- 承認できる範囲
- 公開できる範囲
業務上の責任範囲を基準に権限を設計することが重要です。
権限設計は「できることを増やす」より「迷わせない」ことが重要
CMSの権限設計では、セキュリティの観点から「誰に何を許可するか」を考えることが一般的です。
しかし、UXの観点ではもう一つ重要な視点があります。「その人が、何をしてよいのか迷わない状態をつくる」ことです。
たとえば、ある担当者にサイト全体の編集権限を付与した場合、CMS上では多くの操作が可能になります。
一方で、担当者から見ると次の点が分かりにくくなる可能性があります。
- 自分が編集してよいページはどれか
- 他部署のページを変更してよいのか
- 公開まで自分で進めてよいのか
- 承認を誰に依頼すればよいのか
権限設計のチェックポイント
- 編集範囲……どのコンテンツを編集できるか
- 承認範囲……どのコンテンツを承認できるか
- 公開範囲……誰が公開操作を行えるか
- 閲覧範囲……どの情報・管理画面を閲覧できるか
- 管理権限……ユーザーやワークフローを変更できるか
さらに、権限を細かくしすぎないことも重要です。
権限を増やしすぎると、管理者側では複雑になり、利用者側では「自分には何ができるのか」が分かりにくくなります。
「必要な操作だけができる」ことと、「自分の担当範囲が直感的に分かる」ことの両方を目指すのがポイントです。
承認フローは「理想の業務」ではなく「実際の業務」から設計する
承認ワークフローを設計するときにありがちなのが、最初にCMSの機能を確認してしまうことです。
たとえば「下書き→承認依頼→承認→公開」というシンプルなフローを設定し、それを業務に当てはめようとします。
しかし、実際の企業サイトでは、もっと複雑な確認が発生することがあります。
- 事業部担当者が原稿を作成
- 部門責任者が内容を確認
- 法務部門が確認
- 広報部門が表現を確認
- Web担当者が最終チェック
- 公開
このとき重要なのは、すべての確認を必ずCMSのワークフローに組み込むことではありません。
確認の種類によって、次のように整理する必要があります。
- CMS上で承認するもの
- チャットや会議で確認するもの
- 定例会でまとめて確認するもの
- 担当者の判断で完了できるもの
承認者を増やせば品質が上がるとは限らない
承認フローは、品質管理のために重要です。しかし、承認者を増やしすぎると、公開までの時間が長くなります。
たとえば「担当者→課長→部長→広報→Web担当→情シス」というフローをすべての更新に適用すると、軽微な文言修正まで多くの人の確認が必要になります。その結果、次のような逆効果が発生する可能性があります。
- 承認待ちが増える
- 誰のところで止まっているのか分からない
- 更新が面倒になる
- CMSを使わずにメールで更新依頼する人が増える
そこで、コンテンツの重要度に応じてフローを分ける方法が有効です。
- 軽微な更新……担当者→公開
- 通常のコンテンツ更新……担当者→部門確認→公開
- 重要なコンテンツ……担当者→部門確認→広報確認→公開
- 法務・リスク確認が必要なコンテンツ……担当者→部門確認→法務確認→広報確認→公開
このように、リスクと更新内容に応じて承認レベルを変えることで、品質とスピードのバランスを取りやすくなります。
「誰の承認待ちか」が分かるUXをつくる
承認フローでは、ワークフローそのものだけでなく、現在の状態が分かることも重要です。
たとえばCMSの管理画面で「承認待ち」とだけ表示されても、担当者は誰が確認しているのかが分かりません。できれば、次の情報を確認できるようにします。
- 現在のステータス
- 現在の担当者
- 次に行うべき操作
- 承認依頼日時
- コメント・差し戻し理由
- 公開予定日
特に重要なのが、「次に誰が何をするのか」を明確にすることです。たとえば、次のような情報が見えるだけでも、問い合わせや確認作業を減らせます。
- 「広報部の確認待ちです」
- 「○月○日に承認依頼済みです」
- 「差し戻しされています。コメントを確認してください」
CMS運用ルールは「守らせる」より「守れる」設計にする
CMS運用ルールを作るときには、次のように多くのルールを定めることがあります。
- ファイル名のルール
- ページタイトルのルール
- 画像サイズのルール
- 更新時の確認項目
- 公開前チェック
- 公開後の確認
もちろんルール自体は必要です。しかし、ルールを増やしすぎると、現場では「覚えられない」「面倒」という状態になります。
その結果、ルールはあるが、実際には守られていないという状態になってしまいます。
そこで重要なのが、ルールをCMSのUXに組み込むことです。たとえば、次のような仕組みを用意します。
- 必須項目をCMS側で設定する
- 入力例を表示する
- 文字数をカウントする
- 画像サイズをチェックする
- 公開前チェックリストを表示する
- 入力ミスをその場で知らせる
つまり、「ルールを覚えてもらう」のではなく、「正しい操作を自然に選べる」ようにするという考え方です。
情シスとWeb統括部門は「システム」と「業務」の間をつなぐ
| 情シスが重視しやすいこと | Web統括部門が重視しやすいこと |
|---|---|
| セキュリティ | コンテンツ品質 |
| アカウント管理 | ブランド統一 |
| 権限管理 | 更新スピード |
| システム連携 | 公開までの業務フロー |
| 可用性 | 各部門との調整 |
| 運用負荷 | サイト全体のUX |
どちらか一方だけを優先すると、運用がうまくいかないことがあります。
たとえば、セキュリティを重視して権限を厳しくしすぎると、更新のたびに管理者への依頼が必要になり、現場の負担が増えます。
逆に、更新のしやすさだけを優先して広い権限を付与すると、誤操作や誤公開のリスクが高まります。
そのため、システム要件と業務要件を同時に整理することが重要です。
UX設計で整理したい「4つの視点」
大規模サイトの更新・承認フローを設計するときは、次の4つの視点で整理すると分かりやすくなります。
| 視点 | 確認すること |
|---|---|
| 人 | 誰が作成・編集・確認・承認・公開するのか |
| 権限 | それぞれが何を操作できるのか |
| フロー | どの順番で確認・承認するのか |
| UI | 現在の状態と次の操作が分かるか |
この4つがつながっていることが重要です。たとえば「営業担当者が商品ページを更新する」という業務がある場合、一連の体験として次のように設計します。
- 人……営業担当者が編集する
- 権限……商品ページだけ編集できる
- フロー……部門責任者の確認後に公開する
- UI……「部門責任者の承認待ち」と表示する
大規模サイトのUX設計で避けたい3つの状態
最後に、特に避けたい状態を整理します。
① 権限はあるが、何をしていいか分からない
「編集できる」ことと「編集してよい」ことは同じではありません。
担当範囲が明確になるよう、サイト構造やCMSの画面設計も含めて整理しましょう。
② ワークフローはあるが、誰も使わない
実際の業務とCMSのフローが合っていないと、メールやチャットなど別の手段で承認を行うようになります。
ワークフローは、現場の業務を理解したうえで設計することが重要です。
③ 運用ルールは完璧だが、現場の負担が大きい
ルールを増やすほど品質が上がるとは限りません。
重要なのは、利用者がルールを意識しなくても、正しい更新ができる仕組みをつくることです。
まとめ
複数部門が関わる大規模サイトでは、CMSの機能だけを見て更新・承認フローを設計するのではなく、次の要素を一体として設計することが重要です。
- コンテンツガバナンス
- 権限設計
- 承認ワークフロー
- CMS運用ルール
- 利用者のUX
特に意識したいのは、「誰が、何を、どこまで、どのような手順で行うのか」を明確にし、その業務をCMS上で迷わず進められるようにすることです。
大規模サイトでは、システムを導入すること自体がゴールではありません。
Webサイトを継続的に運用する人が、迷わず・間違えず・必要なときに更新できる環境をつくることこそが、CMSにおけるUX設計の重要な役割です。
Webサイトの使いやすさは、公開画面だけで決まるものではありません。コンテンツを作成・更新する担当者にとっての「使いやすさ」も、継続的なWebサイト運用には欠かせません。
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更新・承認フロー設計に関するよくある質問
Q1. CMSの権限は、部署ごとに設定すればよいですか?
必ずしも部署単位にする必要はありません。部署名ではなく、「どのコンテンツを管理するのか」「どこまで操作できるのか」という業務上の責任範囲を基準に設計することをおすすめします。組織変更があっても運用しやすい権限構造を意識することが重要です。
Q2. 承認者は多いほど安心ではないですか?
承認者を増やすほど品質が上がるとは限りません。確認が必要なコンテンツと、担当者の判断で更新できるコンテンツを整理し、重要度やリスクに応じて承認レベルを設定することが効果的です。
Q3. CMSのワークフローにすべての確認を入れるべきですか?
必ずしもそうではありません。CMS上で正式な承認記録を残す必要があるものと、チャットや会議など別のコミュニケーションで確認するものを整理しましょう。重要なのは、実際の業務とCMS上のフローが無理なく一致していることです。
Q4. 情シスとWeb担当者のどちらが運用ルールを決めるべきですか?
どちらか一方だけで決めるのではなく、役割を分担して検討するのがおすすめです。情シスはセキュリティやシステム面、Web担当者はコンテンツや運用面を中心に検討し、両者で利用者にとって無理のない運用を設計します。
Q5. UXを改善すると、具体的にどのような効果がありますか?
更新担当者が迷わず作業できるようになることで、問い合わせや差し戻しの削減、公開までの時間短縮、誤公開の防止などが期待できます。また、CMSを正しく使いやすい環境にすることで、メールやExcelなどCMS外で行われていた運用を減らせる可能性もあります。
2021年新卒入社。運用や構築、自社サイトの管理など多岐に渡って業務を担当。
毎日カフェラテ1杯と水2Lを飲む。