ECプラットフォーム構築

バックエンド連携の重要性

ECは“売上の壁”ごとに課題が変わる

—マーケから運用・システムへ、焦点のシフトを設計する
EC立ち上げ期では「どう売上を作るか」が最大の関心事になりがちです。広告や集客施策に注力し、まずは売上を伸ばすことが優先されます。
しかし、売上が拡大するにつれて顧客・SKU・業務の複雑性が急速に増し、マーケだけでは解決できない課題が表面化してきます。

本稿では、「売上の壁(1億/3億/5億〜)」を目安に、フェーズごとに浮かび上がる論点と有効な打ち手を整理していきます。

 

売上規模から考えるEC成長の3STEP

STEP1:立ち上げ期(〜売上1億)「まず売れる仕組み」を作る

ECを立ち上げて売上1億円規模を目指す段階では、最も重要なのは「マーケティング」です。このフェーズでの焦点は、プロダクト・マーケット・フィット(PMF)を見極め、効率的な獲得導線を築くことにあります。

まず着手すべきは商材戦略です。需要が明確で、かつ差別化できるSKUから展開し、価格・原価・粗利の設計を見直すことが成長の土台になります。そのうえで、検索広告やSNS、リターゲティングといった集客チャネルを活用し、LP最適化やレビュー創出、UGCの活用で獲得効率を高めていくことが不可欠です。
また、サイト自体の「基礎体力」も売上を左右します。表示速度の遅さや煩雑な入力フォーム、決済手段の不足、返品規約の不明瞭さといった摩擦要因を徹底的に取り除くことで、CVRを高めることができます。

したがって、売上1億円までは「まず売れる仕組みをつくること」に全力を注ぐべきです。マーケティングを最優先し、“売れる設計”を確立することが、次の成長フェーズへの突破口になります。

STEP2:成長期(〜売上3億)「一見客を顧客に」LTV設計と顧客基盤

売上が1億円を超えると、次の壁となるのが「リピート率」です。単発購入をいかに継続購入へとつなげ、LTV(顧客生涯価値)で事業を安定させられるかが焦点になります。このフェーズでは、マーケティングに加えてCRMや顧客基盤の整備が不可欠です。

具体的な打ち手としては、まずCRM/MAを活用したRFM分析やセグメント配信が挙げられます。メールやLINE、プッシュ通知を顧客ごとに最適化し、定期購入やサブスクリプションの仕組みを取り入れることでリピートを促進します。また、自社ECとモールの連携、SNSやブログを活用した関係性づくり、アフィリエイトの選択的な利用によって接点を広げることも重要です。

さらに、データ基盤の整備も欠かせません。ECとCRMのIDを連携させ、二重管理や二重配信を防ぐことで、顧客体験の一貫性を高められます。 この段階で追うべきKPIは、リピート率やLTV/CAC、セグメント別のCVRやチャーン率など、顧客の継続性に関わる指標です。同時に、顧客DBの重複率や配信の到達率・解約率といった、基盤の精度を示す指標も見逃せません。

一方で、落とし穴もあります。チャネルごとに顧客IDが分断されてしまい、一貫した顧客体験を提供できなくなるケース。また、施策を「やりっぱなし」にしてしまい、検証や学習、横展開が回らず、成果が積み上がらないケースです。

つまり、売上3億円前後の成長期は「マーケティング × 顧客基盤」の勝負どころ。CRM連携の設計品質が、その後の伸びしろを大きく左右するのです。

STEP3:拡大期(〜売上5億)バックエンドで利益を守る

売上が5億円に近づくと、事業の成長スピードにバックエンドが追いつかなくなり、急激に“非効率の壁”にぶつかります。小売ではSKUの増加がそのまま売上拡大につながりやすい一方、SKUが増えるほど商品情報の更新遅延や検索性の低下、在庫や物流の混乱、会計処理や照合作業の逼迫、問い合わせの急増といった問題が一気に表面化します。これまで人海戦術で乗り切れていたオペレーションが、限界を迎えます。

このフェーズで必要なのは、徹底した「仕組み化」です。商品情報を一元管理するPIM、受注・在庫・出荷を最適にコントロールするOMS、倉庫業務を効率化するWMSの導入は、もはや不可欠。さらに会計やERPと連携することで売上・原価・在庫評価を整合させ、月次決算をスピーディに進められるようにします。加えて、ナレッジ管理やチャット対応を組み込んだCS基盤によって、問い合わせや返品対応を標準化することも重要です。

追うべきKPIも「利益を守る指標」にシフトします。出荷1件あたりのコスト、誤出荷率、欠品率、在庫回転日数といった効率性に加え、問い合わせ数や一次解決率、返品率などCSの健全性を示す指標。そして、月次締めリードタイムやデータ整合エラー件数といった管理精度も欠かせません。

また、システム刷新のサインを見逃さないことも大切です。CSVインポートや二重入力が日常化している、新SKU投入に過剰な工数がかかる、月次締めが遅れ在庫数が実態と乖離している――こうした兆候は「リプレイスのタイミング」を示しています。

つまり、売上5〜10億円に向かう拡大期は、マーケティングだけでは成長を支えられない局面です。バックエンドの効率化・標準化・基幹連携の設計品質こそが、利益率を守り、持続的な成長を実現できるかどうかを決めるのです。

表で分かるフェーズ別の焦点・投資・KPI

事業の成長ステージごとに、注力すべきテーマ、投資の方向性、成果を測るKPIを整理しました。どの段階で何にリソースを割くべきかを、表形式でひと目で確認できます。

フェーズ別の焦点・投資・KPI

エンタープライズECを検討するタイミング

売上規模が5億円から10億円に差し掛かると、企業は事業のスピードに既存のバックエンドが追いつかなくなり、「システム化しないと運用が破綻する」という現実に直面します。これは単に効率化の問題ではなく、事業継続に関わる必然的な課題です。

典型的な状況としては、SKU数の増加や属性の複雑化に加え、自社ECにモールや実店舗を組み合わせた多チャネル運用が発生します。日次注文が四桁規模に達し、倉庫や3PLとの連携も複雑さを増すなかで、欠品や誤出荷、返品処理などのリスクが表面化します。さらに、会計・税務・監査要件は厳格化し、仕訳や消込、月次締めといった作業の負荷も一気に増大します。海外展開を視野に入れた多通貨・多言語対応、各国規制への準拠といった要素も加われば、従来の仕組みでは限界を迎えます。

こうした局面において、投資判断の基準は「いくらかかるか(TCO)」から「どれだけ効果を生むか(ROI)」へとシフトしていきます。TCOにはライセンス費用や導入・運用コスト、人件費、障害対応のコストなどが含まれますが、ROIでは出荷生産性の向上や在庫最適化、欠品・誤出荷の削減、月次締めの短縮、CS一次解決率の改善といった成果が重視されます。さらに、二重入力の解消や属人作業の排除、監査対応の平準化など、リスク低減の観点も重要な評価軸になります。

導入にあたっては「全部を一気に入れ替える」のではなく、段階的なリプレイスが現実的です。例えば、商品情報を集約するPIMから着手し、その後OMS、WMS、最終的にERPへと置換していくことで、事業を止めることなく基盤を進化させていくことが可能です。クリティカルパスとなる領域から順に着手することが、スムーズかつ確実な移行の鍵となります。

つまり、売上が5億円を超えた段階は「エンタープライズEC」を真剣に検討すべきタイミングです。バックエンドを“コスト”として捉えるのではなく、事業の成長と利益率を守るための基盤として位置づけ、段階的にシステムを整備していくことが次の成長曲線を描くための前提条件となります。

エンタープライズECを検討するタイミング

まとめ

ECの成長には、それぞれ越えるべき「売上の壁」があります。

  • 1億円の壁:マーケティングで“売れる”仕組みを作る
  • 3億円の壁:CRMで“続けて買う”仕組みを設計する
  • 5〜10億円の壁:バックエンドで“利益を守る”仕組みを整える

これらの壁を越えた先では、PIM・OMS・WMS・ERPなどを連携させたエンタープライズECへの投資が、持続的成長の前提となります。
つまり、単にマーケティングを強化するだけでは成長は続かず、データ・業務・オペレーションの土台があってこそ、売上の壁を越え続けられます。

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