ECシステム開発
フロントエンドとバックエンドの分離
はじめに
EC市場の競争が一層激しくなるなか、近年注目を集めているのが「ヘッドレスコマース」です。
これは単なる技術トレンドではなく、企業が顧客体験を高め、持続的な成長を実現するための必然的なアーキテクチャといえます。
本記事では、ヘッドレスコマースがなぜ重要視されているのか、その背景や具体的な事例、さらにECパッケージの進化について解説します。
ヘッドレスコマースとは?
ヘッドレスコマースとは、フロントエンド(顧客が触れる画面やUI)とバックエンド(在庫・顧客データ・契約・決済処理など)を切り離して構築する仕組みを指します。
従来の一体型システムでは、フロントを改修するたびにバックエンドにも影響が及び、スピード感のある改善が難しいという課題がありました。ヘッドレス化により、フロントは自由に改修でき、バックエンドは安定運用を維持するという柔軟性を実現できます。
さらに、ヘッドレスコマースに対応することで、Webやアプリ、IoT、店舗といったマルチチャネル展開から、複数ブランドや複数国へのスケーラブルな展開まで、ビジネス成長に不可欠な拡張性を備えることができます。
背景にある「改修サイクルの違い」
フロントとバックエンドでは開発サイクルの性質が根本的に異なるため、両者を切り離す「ヘッドレス化」が求められます。
フロント:変化が速く、スピード勝負
- デザインやUIの流行は短期間で入れ替わる
- 新しいSNSや広告手法が次々登場
- グロースハック的な改善を短期サイクルで回す必要がある
つまり、フロントは変化に素早く対応できる設計が必須です。
バックエンド:安定性と信頼が最優先
- デザインやUIの流行は短期間で入れ替わる
- 新しいSNSや広告手法が次々登場
- グロースハック的な改善を短期サイクルで回す必要がある
そのため、バックエンドは慎重に・堅牢に運用されるべき領域です。
フロントとバックの分離で高まる改修の自由度と運用性
「ECシステムでは、フロントとバックエンドの改修サイクルが異なることが多く、一体型のシステムでは基本的に両方を同時に改修する必要があります。そのため、在庫管理や商品データベースの変更に伴ってフロント側も同時改修を余儀なくされ、バックエンドの改修サイクルが1年単位でしか動かせない場合、フロントのUI改善や機能追加もバックエンドのタイミングに縛られてしまうという課題が生じます。
これに対して、フロントとバックを分離したシステムでは、各改修を独立したタイミングで行えるため、フロントの改修自由度が大きく向上します。フロント単体でのUI改善や新機能追加が可能となり、開発サイクルを短縮できます。また、バックエンドに影響を与えずにキャンペーン対応や施策展開を行えるため、迅速な運用調整や施策展開も可能です。
さらに、分離型システムでは複数チャネルへの一貫運用も容易になります。Web、アプリ、SNSなどの異なるチャネルで同じバックエンドを活かしつつ、フロント側を最適化して提供することが可能です。バックエンドは商品情報、顧客データ、在庫状況などを統合管理することで、フロントや各チャネルに正確に反映され、業務プロセスの効率化も実現します。APIやモジュール連携により、新しいサービス追加や機能拡張も容易になり、フロント改修や運用にも柔軟に対応可能です。
このように、フロントとバックの分離は単なる技術的選択ではなく、迅速な施策展開、UI改善、マルチチャネル運用、安定したバックエンド管理といったEC運用の自由度を高める戦略的な設計といえます。
Shopifyに見るヘッドレス化の流れ
世界的に支持されるECプラットフォーム Shopify
は、導入のしやすさと拡張性の高さから、世界中で急速に利用が拡大しています。しかし、その基本構造はフロントエンドとバックエンドが一体型であるため、大規模なユーザーや複雑な要望に応えきれない側面がありました。
そこで登場したのが
「Shopify Plus」 です。
Shopify Plus は、APIベースで利用できる ヘッドレス対応サービス として提供され、一定規模以上の顧客向けにリリースされました。完成度の高いASP型サービスであっても、ヘッドレス化のニーズに対応せざるを得ない時代であることを象徴しています。
さらに補足すると、Shopify Plus は単にヘッドレス対応にとどまりません。
- 大規模取引に対応するスケーラビリティ
- 多通貨決済や従量課金など、エンタープライズ向けの機能強化
- 専任サポート体制
といった、企業規模や複雑なビジネス要件に応えるための機能も備えています。
Shopifyの事例は、ECプラットフォームが 「柔軟性と拡張性を両立するヘッドレス化」 という潮流を反映していることを示しています。
エンタープライズECパッケージの3タイプ
大規模EC向けのパッケージは、もともと API連携を前提 としていますが、そのアーキテクチャには大きく分けて3つの方向性があります。
- 疎結合型
一見すると一体型に見えますが、内部は分離設計となっており、フロント・バックの柔軟性は高いです。ただし、全方向対応を意識するとライセンス費用が高額化しやすいです。
- 一体型+API型
基本は一体型で利便性が高く、必要に応じてAPI連携も可能です。しかし、要望が積み重なるとシステムが複雑化し、改修コストや影響範囲が肥大化するリスクがあります。
- ヘッドレス特化型
最初から分離を前提に設計されており、フロントは完全に自由に構築できます。一体型のメリットは享受できませんが、コスト効率が高く、ライセンスも比較的安価です。
主要エンタープライズECのヘッドレス対応
補足として、Salesforce Commerce Cloud、Adobe Commerce(旧Magento)+API強化、SAP Commerce Cloudといった主要エンタープライズECも、近年はヘッドレス対応を強化しており、大規模ECにおける柔軟性と拡張性の確保がますます重要になっています。
このように、大規模ECパッケージにおいては、疎結合型や一体型+API型といった既存の設計に加え、ヘッドレス特化型が成長戦略上有力な選択肢として注目されています。
まとめ:ヘッドレスは必然の選択肢
ECサイトでは、フロントエンドは高速改善、バックエンドは堅牢性重視 という性質上、両者の開発サイクルに大きな差があります。この違いを吸収し、柔軟かつ安定した運用を実現するために、ヘッドレスコマースは必然的な選択肢となっています。
世界的に支持される Shopify Plus の登場は、このヘッドレス化の潮流を裏付ける代表例です。Shopify PlusはAPIベースでフロントとバックを分離でき、エンタープライズ向けのスケーラビリティや多通貨決済などの機能強化も備えています。
さらに、エンタープライズ領域では OrderCloud や commercetools といった、ヘッドレスに特化したプラットフォームが新たな選択肢として台頭しています。
これらの動きからも明らかなように、ヘッドレスコマースはもはや一過性の流行ではなく、EC成長戦略における標準的な選択肢 になりつつあります。成長を目指すEC事業者にとって、今後は 「ヘッドレスをどう取り入れるか」 が避けて通れない重要テーマとなるでしょう。