画像生成AIが一般化されて早数年。日進月歩で品質向上していく画像生成AIを、間近で触れられるイベントが東京で開かれるということで参加してきました。
Adobe MAX Japanは最新のクリエイティブに触れられる機会です。今年のイベントはキーノートをはじめ、セッションや会場のどこにいても画像生成AIというキーワードを耳にしました。それほど画像生成AIはクリエイティブの世界に広く浸透しており、その活気は新たな便利な活用方法を模索している兆候と言えるでしょう。
その中でも私が注目したのは、画像生成AIやストックフォトサービスの活用方法に焦点を当てたセッション。「使う」から「活かす」ためにはどうすればよいのか、これらのクリエイティブをどうビジネスに活かしていくかを、イベントレポートを交えながら考えてみます。
目次
画像生成AIはマーケターも注目するべきツール
いくつものセッションに参加して感じたのは、画像生成AIはマーケティングやディレクションに従事する方も注目しておくべきツールだということです。
画像生成AIの登場により、マーケティングとクリエイティブがより近く密接になってくると、キーノートのなかで述べられていました。つまり私たちが画像生成AIを活用するためには、マーケターであればクリエイティブを、クリエイターであればマーケティングを理解する必要があると言えます。
一方で、画像生成AIを使ったワークフローを策定する開発チームと、それを活用してマーケティングに活かす実務チームに分けることの重要性を示唆するセッションもありました。分業することで専門性が向上し、より効果的なクリエイティブを生み出すことが期待できます。
画像生成AIツールをキャッチアップする
画像生成AI活用術のセッションでは、アイデアの敷居を広げるために、さまざまな画像生成AIを「とにかく試してみる」ことが大切であると強調されました。トライ・アンド・エラーを繰り返すことで、そのツールごとの特徴やクセを知ることができ、どういった場面でどのような活用が期待できるのかをリサーチできます。
セッションの中で例示されていた画像生成AIツールをいくつか紹介します。
- Stable Diffusion:高品質な作品が可能。環境構築や学習コストがかかる。
- Midjourney:イラストからフォトリアルなものまで生成可能。長いプロンプトが必要。
- DALL•E 3:使いやすく手軽。
- Firefly:Adobeが開発し、日本語プロンプトにも対応。
- RUNWAY:プロンプトから動画生成。
- AnimateDiff:スタイリッシュな動画を簡単に生成可能。
- Pika:写真やイラストをリアルに動かす。
これらの画像生成AIツールを用途によって組み合わせ、新しいデザイン開発に組み込んでいくことが、今日のクリエイターに必要とされているスキルと言えそうです。
なおイベントではAdobe Fireflyを体験できるブースもあり、Adobeのスタッフから説明を受けながら、生成の速さや品質などを確かめられました。
具体を抽象化し、パターンを大量生成して、パーソナライゼーションへ活かす
マーケティングにA/Bテストがあるように、あるものと類似の成果物を要求される場面はクリエイティブにも多くあります。こうした類似の物を作成する過程でも、画像生成AIは有用であることが示唆されました。セッションで紹介された事例では、
- モデルのポーズを固定して、人種や年齢、性別などのパターンをいくつも生成すること
- 1人のモデルを生成し、さらにそこから多種多様なポーズや構図でパターンを生成すること
などといった手法です。
実在するモデルにはお願いできないような多数のポーズや構図を、一気に生成できるのはAIの強みです。この手法により得られるメリットは、効率化によってより迅速なプロジェクトやキャンペーンの実現を図るのみではありません。コンプレックスなどを扱うセンシティブな広告でも、倫理規範に則って画像生成AIを使用することで、実在するモデルの権利を害さずに済むのです。
こうしたなかでとくにマーケティングで重要となるのは、固定させるキーワード(シード値と呼びます)と変動させるキーワードを抽出すること。マーケティングではモデルのポーズひとつでコンバージョンが変動します。モデルや環境が持つ情報を抽象化しキーワード化することで、狙ったパターンの大量生成に役立てられます。
画像を少しずつ調整していくのではなく、パターンを大量生成することによりターゲットにマッチした成果物を素早く手に入れることができ、効果的なマーケティングにつなげられます。
ひいては、これまでセグメント単位で行われていたパーソナライゼーションが個人単位で行われるようになるのも、そう遠くない未来に見えます。
セッションではさらに、大量生成された画像を自社開発オークションAIにかけて最適な物を導き出す手法が紹介されて、会場では歓声があがりました。
リスクに対する考えも明確にする必要がある
セッションでは最後に、クリエイターとして心がけておきたいモラルやリテラシーについても紹介されました。画像生成AIを扱う人として必ず知っておくべき内容です。
- 生成した人物が偶然にも実在の人物と似てしまう
- 著作物のあるプロダクトに似たものが生成される
- 入力した情報が学習データに利用されてしまう
こうしたリスクへの対処として、依拠性を否定する証明ができること、個人情報や商標などの固有名詞を含んだプロンプトを避けることが必要です。我々クリエイター一人ひとりが、高いリテラシーをもって活用することが大切です。
最近では、AIモデルを起用した飲料メーカーのCMが話題となりました。このモデルについても、しっかりとした法務手続きや依拠性をクリアしたうえで生成されていることでしょう。
プロジェクトの規模感にかかわらず、生成された画像を商用利用する場合は、リスクや安全性が担保されたものかどうかをしっかり確認しておく必要があります。
安全なストックフォトサービスと画像生成AIを活用する
前章ではリスクについて紹介しましたが、リスク対策はどうしても画像生成AI活用の障壁となってしまいます。クリエイターは法的問題を意識せず自由に活用をしたいものです。
Adobeは「安全な商用利用」を掲げており、同社が提供するストックフォトサービスであるAdobe Stockにおいても、AIと人間の作品の明確な差別化、コンテンツクレデンシャル情報などのデジタル認証をはじめとした、クリエイターやクライアントが安心して利用できる設計となっています。
さらに、Adobe Stock内の画像生成AI機能を利用して購入した作品には「補償」がつきます。つまり、もしその画像で第三者からの権利侵害が発生したとしても、Adobeが損失への補償をしてくれるのです。これはクリエイターやクライアントにとって、さらに安心できる要素ではないでしょうか。通常のストックフォトと同じように画像生成AIを利用できるのは大きなメリットです。
一方で、Adobe FireflyやAdobe Expressで生成される画像については補償がありませんので、インターナルユーズ(社内や個人での利用)をオススメするとのことでした。
ビジネスでの展開・会社での活用方法
これまでデザインフローの多くは、完成させたものを納品し、お客さまからのご指摘やご要望をいただくというものでした。しかしこれらの画像生成AIを活用することにより、リアルタイムでお客さまとコラボレーションすることも可能となりました。アイデアをその場で形にすることで、よりよい提案をお客さまに提供できるとともに、創出に掛かる時間を短縮してビジネスの早期実現につなげられます。
いくつかの活用アイデアをご紹介します。
画像生成AIはクリエイティブな分野において新たな可能性を切り開いています。私たちクリエイターはこれらの活用方法や倫理規範を理解することで、お客さまのビジネスをもっと迅速かつ効果的に進展させることができるのではないかと考えています。今後も画像生成AIがクリエイティブ業界にもたらす変化に期待が膨らみます。
佐々木 Webデザイナー
2014年入社。安定感や清潔感のあるデザインが得意。CMSに導⼊しやすい効率的かつ保守性の⾼いマークアップができ、デザイナーながらフロントエンドの技術も有する。
旅と写真が好きだが、地図を眺めていて1日が終わることがよくある。